コラム 基礎知識編
意外と知らない?情報技術分野認定実習併用職業訓練とは?
2023年7月10日
2022年から始まった5種類の人材開発支援助成金の中の「情報技術分野認定実習併用職業訓練」についてまとめました。
情報技術分野認定実習併用職業訓練とは?
IT分野未経験者に対するOFF-JTとON-JT(OJT)の組み合わせ型の訓練を行う事業主に経費と賃金を助成する制度です。主に情報通信業の会社やデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める会社向けの制度となります。主な訓練の概要は次のとおりです。
- 教育訓練機関での座学(OFF-JT)と企業内での実習(ON-JT)を組み合わせて行う実践的訓練
- 訓練実施期間が6か月以上、2年以下
- 総訓練時間数が1年換算で850時間以上
OJTは事前に書類を提出することにより、オンラインでの実施でも可能となります。OFF-JTは、公共職業能力開発施設や認定職業訓練を行う施設、各種学校等(専修学校など)で受講した情報処理・通信技術者の職種に関連する業務に必要な訓練が対象となります。ただし、職業職務の種類を問わず、職業人として共通して必要となる訓練も一部認められています。
活用事例は?
一事例として次のような場合に、本助成制度を活用することができます。
前提
- 情報通信業に分類される法人
- 従業員数が30名
- 事業内容:Sier
課題
IT分野の経験者の人員の確保が難しくなったため、未経験者を採用にすることになったが、一から教育が難しい。
訓練
- コース:プログラミング講座
- 目標:プログラミング言語の取得等
- 企業内での実習(ON-JT)の内容:実際に発注を受けたシステムの構築
- 訓練時間:教育訓練機関での座学(OFF-JT)800時間、企業内での実習(ON-JT)200時間
- 受講料等:一人当たり700,000円
- 資格試験の受験料:一人あたり50,000円
一人当たりの支給額
- OFF-JT
経費助成:450,000円(受講料・受験料 750,000円 × 60%)
- ON-JT
実施助成:200,000円
総額:1,258,000円
受講や受験にかかった経費だけでなく、労働者にかかる賃金も一部助成されます。したがって、業務として通常の賃金を払って受けさせた職業訓練が本制度の対象となります。業務時間外や賃金を支払っていない訓練、通常勤務と同額の賃金を支払っていない場合には助成の対象になりません。
助成率と助成額は?
中小企業と大企業によって、助成率と助成額は分けられております。
経費助成率 | 賃金助成額 | OJT実施助成額 |
中小企業 | 大企業 | 中小企業 | 大企業 | 中小企業 | 大企業 |
60% | 45% | 760円 /h | 380円 /h | 20万円 | 11万円 |
訓練終了日以降に、賃金要件と資格等手当要件のどちらかを満たすと、通常よりも割増で受給を受けることができます。
経費助成率 | 賃金助成額 | OJT実施助成額 |
中小企業 | 大企業 | 中小企業 | 大企業 | 中小企業 | 大企業 |
75% | 60% | 960円 /h | 480円 /h | 25万円 | 14万円 |
- 賃金要件
毎月決まって支払われる賃金について、訓練終了日の翌日から起算して1年以内に、5%以上増加されていること。
- 資格等手当要件
資格等手当の支払いについて、就業規則、労働協約又は労働契約等に規定した上で、訓練終了後の翌日から起算して1年以内に全ての対象労働者に対して実際に当該手当を支払い、賃金を3%以上増加させていること
中小企業と大企業の区分
中小企業と大企業の区分は、資本金もしくは労働者の数で判断されます。基準は、総務省の日本標準産業分類の「業種区分」によって異なりますが、大分類の「情報通信業」の場合には、次のどちらが満たすのであれば、中小企業に区分されます。
- 資本金の額または出資の総額が5,000万円以下
- 企業全体で常時雇用する労働者が100人以下
限度額、限度時間
1事業所1年度あたりの限度額は2,500万円です。1年度とは4月1日から翌年3月31日までのことを指します。また、一人あたりの1年度あたりの限度額、限度時間は次のように定められています。
経費助成
実訓練時間数 | 中小企業 | 大企業 |
100時間未満 | 15万円 | 10万円 |
100時間以上、200時間未満 | 30万円 | 20万円 |
200時間以上 | 50万円 | 30万円 |
賃金助成
| 中小企業 | 大企業 |
限度時間 | 1,200時間 | 1,200時間 |
助成金の受給の流れは?
4つのステップを行い、
労働局より申請が認められると助成が受けられます。
- 事業内計画の作成等
事業内職業能力開発計画を作成し、労働者に段階的・体系的な訓練を実施することが必要です。加えて、社内で職業能力開発の取組みを推進するキーパーソンである職業能力開発推進者を選ぶことも必要です。
- 計画提出
職業訓練実施計画届(様式第1-1号 ) を作成し、訓練開始日から起算して 1か月前までに必要書類を都道府県労働局に提出することが必要です。
- 訓練実施
職業訓練実施計画届(様式第1-1号)に基づき、訓練を実施します。なお、計画を変更して訓練を実施する場合は、あらかじめ職業訓練実施計画変更届(様式第2号)を提出することが必要です。
- 支給申請
訓練計画に記載される訓練終了日の翌日 から起算して 2か月以内 に支給申請書(様式第 5 号)と、必要な書類を提出します。
事前の準備もなく訓練を始めてしまうと、助成は受けられません。申請や作成にかかる書類が膨大であり、細かい要件も設けられているため、実施にあたっては、社会保険労務士などの専門家との協議の上、進めていくことをおすすめします。
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参考文献:
厚生労働省ホームページ
author ABNアドバイザーズ妹尾