コラム 基礎知識編
~近時の『親子上場』の方向性~
2023年7月18日
近時の親子上場主要事例
日本有数のeコマース事業者である楽天グループ株式会社(以下、楽天G)は、2023年7月4日付けで、証券子会社である楽天証券ホールディングスについて、東京証券取引所に上場申請を行ったことを発表しました。楽天Gにおいては、2023年4月に銀行子会社である楽天銀行株式会社(以下、楽天銀行)が上場したばかりの出来事です。
楽天Gは、ユーザーの生活における様々なシーンを、楽天グループのサービス利用に寄せる『楽天経済圏』を掲げ、EC、金融、移動体通信、生活情報サービスや娯楽等、様々なサービスを手掛けています。その中でも楽天Gの最注力事業といえる携帯電話事業に巨額投資を行った影響で、純損益は2022年12月期迄の4期連続で赤字の状況となっています。
前述の楽天銀行上場タイミングで、楽天Gは同社の一部株式を売却し、717億円を調達し、楽天Gの財務改善に活用されるものと一部報道が為されています。以下にて、近時の親子上場の状況、方向性について記します。
親子上場の概数
2023年7月14日時点での東京証券取引所における上場会社数は3,895社(TOKYO PRO Market含む)、うち約200社超が親子上場企業との状況です(野村資本市場研究所調べで2022年3月末時点の親子上場企業数は219社)。
下記にて親子上場を行う企業の一例を列挙します。
【親子上場の一例】
(1)ソフトバンクグループ(東証プライム コード:9984)
(未上場子会社であるソフトバンクグループジャパンを通じ下記子会社が上場しています)
- ソフトバンク(東証プライム コード:9434)(ソフトバンクグループの孫会社)
- アルファパーチェス(東証スタンダード コード:7115)(ソフトバンクグループの来孫会社)
- イーエムネットジャパン(東証グロース コード:7036)(ソフトバンクグループの曾孫会社)
- SBテクノロジー(東証プライム コード:4726)(ソフトバンクグループの曾孫会社)
- Zホールディングス(東証プライム コード:4689)(ソフトバンクグループの曾孫会社)
- サイバートラスト(東証グロース コード:4498)(ソフトバンクグループの玄孫会社)
- ZOZO(東証プライム コード:3092)(ソフトバンクグループの玄孫会社)
- アスクル(東証プライム コード:2678)(ソフトバンクグループの玄孫会社)
- バリューコマース(東証プライム コード:2491)(ソフトバンクグループの玄孫会社)
- アイティメディア(東証プライム コード:2148)(ソフトバンクグループの玄孫会社)
(2)GMOインターネットグループ(東証プライム コード:9449)
- GMOフィナンシャルホールディングス(東証スタンダード コード:7177)
- GMOメディア(東証グロース コード:6180)
- GMO TECH(東証グロース コード:6026)
- GMOアドパートナーズ(東証スタンダード コード:4784)(GMOインターネットグループの孫会社)
- GMOフィナンシャルゲート(東証グロース コード:4051)
- GMOグローバルサイン コード:ホールディングス(東証プライム コード:3788)
- GMOペイメントゲートウェイ(東証プライム コード:3769)
- GMOリサーチ(東証グロース コード:3695)
- GMOペパボ(東証プライム コード:3633)
(3)イオン(東証プライム コード:8267)
- ミニストップ(東証プライム コード:9946)
- イオンディライト(東証プライム コード:9787)
- コックス(東証スタンダード コード:9876)
- イオンモール(東証プライム コード:8905)
- イオンフィナンシャルサービス(東証プライム コード:8570)
- フジ(東証プライム コード:8278)
- マックスバリュ東海(東証スタンダード コード:8198)
- イオン北海道(東証スタンダード コード:7512)
- サンデー(東証スタンダード コード:7450)
- イオンファンタジー(東証プライム コード:4343)
- ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(東証スタンダード コード:3222)
- ウエルシアホールディングス(東証プライム コード:3141)
- キャンドゥ(東証スタンダード コード:2698)
- ジーフット(東証スタンダード コード:2686)
- イオン九州(東証スタンダード コード:2653)
親子上場のメリット・デメリット
以下、メリット・デメリットを表に纏めました。
親子上場のメリット・デメリット
東京証券取引所では、『従属上場会社(実質的な支配力を持つ株主を有する上場会社)における少数株主保護の在り方などに関する研究会』を立上げ、2020年9月に中間整理として、『今後の検討課題』下記を記しています。
- 上場後に支配株主・支配的な株主を有することについては、シナジーによるグループの連結企業価値最大化や事業再編における過渡的な形での活用等の意義・利点が構造的な利益相反の弊害を上回ることもありうるため、一律の禁止は妥当でない
- もっとも、昨今の事例を踏まえると、支配株主・支配的な株主が少数株主の利益への配慮を等閑視することで、少数株主の利益が害されるおそれがあるため、少数株主保護の枠組みや適用範囲に関する今後の検討課題を整理
上記より、『親子上場は一律禁止では無いものの、少数株主保護の観点より検討課題を整理する』と、東証としてのメッセージは発出されています。
足元の親子上場企業数について、前述の通り野村資本市場研究所の調査によれば、2022年3月末時点での企業数は219社であり、これは2007年3月末の417社をピークに15年連続で減少しています。市場全体の方向性とすれば、親子上場は今後も減少トレンドに有ることが推察されます。
他方、イオンは15の上場子会社を抱える。同社の尾島司執行役は、『経営を強化し、レベルを上げていくには上場が一番合理的』、『(子会社上場を通じ子会社の)経営レベルも経営者の質も上がる。従業員も育ち、企業のサービス、商品、顧客への対応レベルが上がる』(2022年ロイター社インタビューより)と、市場のトレンドと逆行する企業が存在することも事実です。
親子上場の近時の事例、メリット・デメリット、市場の方向性や個別企業の対応を見ると、各社各様の経営戦略に応じた資本政策を垣間見ることが出来ます。冒頭で触れた楽天Gによる楽天証券ホールディングスの上場について、今後をフォローすることで、親子上場を通じた親会社・子会社の姿や実現の目的を、より具体的に認識できるかもしれません。
弊社は、国内数少ない銀行系(あおぞら銀行グループ)のM&Aアドバイザリーとして、上場会社・非上場会社問わず、譲受・譲渡両サイドよりM&Aに幅広く関与いたしており、様々な経営戦略に応じたM&Aサポート体制を整えております。M&A(譲受・譲渡)をご検討される企業様は、是非とも弊社をご用命ください。
参考文献:
- 2020年1月7日 経済産業省 上場子会社に関するガバナンスの在り方
- 2020年9月1日 東京証券取引所 支配株主及び実質的な支配力を持つ株主を有する上場会社における少数株主保護の在り方等に関する中間整理
- 2022年夏号 野村資本市場研究所 野村サステナビリティクオータリーより 親子上場の状況(2021年度末)-前年度比29社純減:東証の市場改革で企業再編が加速-
author ABNアドバイザーズ川村