コラム M&A知識編
~M&Aと清算(廃業)はどちらがお得?メリット・デメリットの比較~
2023年8月14日
経営者が経営から身を引くには様々な手段が存在しますが、最終的には「廃業・清算」「親族・役職員等の後継者への承継」「株式公開(IPO)」「M&A(第三者への承継)」の4つが選択肢として残ります。
親族・役職員等の後継者への承継では、親族に継ぐ意思を確認する必要があったり、継ぐ意思があっても高額な株式の買取資金を準備出来ない問題が発生する場合があります。また、株式公開(IPO)も時間や費用の観点から中堅・中小企業には現実的ではないケースが多いと言えます。
従って、中堅・中小企業における後継者候補不在のケースではM&Aと清算・廃業のどちらが良いかを選ぶことは、経営者にとってとても重大な課題となります。本記事では、M&Aと清算それぞれのメリット・デメリットを解説します。
1.M&Aとは?
M&Aとは『Mergers(合併)and Acquisitions(買収)』の略です。
企業の合併買収のことで、2つ以上の会社が一つになったり(合併)、ある会社が他の会社を買ったりする事(買収)を指します。
M&Aの概要や核スキームについては、2023年7月のコラム
「M&A基礎編 ~株式譲渡と事業譲渡の違い~」で説明しておりますのでご確認下さい。
2.清算とは?
清算手続きには、会社の状況によって「通常清算」と「特別清算」の2つの方法があります。
- 通常清算とは?
通常清算とは一般的に、資金に余裕がありながら自主的に廃業するケースで、会社に残った債務を全額支払うことができる場合に採られる清算方法です。
会社の清算人が、会社の資産である売掛金や在庫などを換価回収して、集まった資金で債務を支払って清算手続が完了します。
- 特別清算とは?
特別清算とは、会社が債務超過の状態(残っている会社資産をすべて現金化しても債務を完済できない場合)にとられる清算方法です。
従って、債務超過のケースでは、通常清算の方法では会社を清算することができません。
また、「特別清算」を行う場合は、裁判所に「特別清算」の申立てをし、裁判所の監督の下で清算手続きを行うことになります。
3.M&Aと清算(廃業)との手取額の違い
会社をM&A、または清算する場合にどの位の資産が残るかは非常に重要なことです。M&Aと清算の場合、それぞれ経営者にどれくらいの金額が入ってくるかを税務の観点を含めてそれぞれ説明します。
- M&Aの場合
M&Aによる事業承継を行った場合、純資産額にのれん(営業権)を加えた金額で取引が行われるケースが大半を占めます。のれん(営業権)の額面は、業種や業績にもよりますが、営業利益の3年分が一般的と言われています。
例えば、営業利益が3,000万円の会社の場合、M&Aによる事業承継では、3年分の営業権で概算すると営業権だけで9,000万円、さらに会社の純資産額を加えた金額が相場になります。
*純資産額は、貸借対照表にある資産の総額から負債の総額を差し引いた金額です。
また、株式譲渡により会社を売却した場合、売り手である経営者には株式譲渡所得が発生します。譲渡所得の金額は売却した金額から取得価額や譲渡に要した費用を差し引いた金額で計算されます。そして、計算された譲渡所得に対して、20.315%(所得税15.315%、住民税5%)の税金がかかります。
計算式は以下の方法になります。
株式譲渡所得 = 売却金額 -(取得金額+譲渡費用)
譲渡所得税 = 株式譲渡所得 × 20.315%
従って、会社売却による手取りの金額は売却金額から譲渡所得税を差し引いた金額となります。
- 会社清算の場合
会社清算した場合に手元に残る現金の額は、清算結了した時点における残余財産を株主の間で分配した金額となります。また、資本金の部分は株主が出資した金額なので、その金額までは株主に払い戻しても税金はかかりません。
一方で、出資の払戻部分(資本金と一致する事が多い)を超える額は、みなし配当とされ、所得税がかかります。個人株主の場合、みなし配当は総合課税となりますので、累進税率(最大で45%)により税額が高額になる可能性があります。
4.M&Aと清算(廃業)との従業員・取引先の関係について
- M&Aの場合
会社と従業員・取引先の間で結ばれていた契約は、原則としてそのまま維持されます。
従業員の退職金制度がある場合、M&A時点までの退職金要引当額は譲渡対価に反映(減額)されることが多いです。他方M&A実施以降の退職金は譲受側で負担することが多いです。
- 会社清算の場合
会社清算の場合は、税金・社会保険料、従業員、取引先債権債務を清算しなければなりません。一番優先的に清算されるのは、抵当権などを有する債権者であり、次に税金や社会保険料、従業員への労働債務(給料や退職金)であり、株主への配当は最後の最後になります。
本コラムのポイント
☑ M&Aではのれん(営業権)を計上できるケースも多く、清算と比べ会社の企業価値が高くなる
☑ 会社清算では税負担が大きい
☑ M&Aでは、従業員、取引先との関係も継続できる
以上、M&Aと清算(廃業)の概要、手取額の違い、比較について述べさせていただきました。会社を清算(廃業)するのではなく、M&A事業承継によって課題を解決する方法もありますので、まずはお気軽にご相談ください。
author ABNアドバイザーズ田中