「こころ」を大切に、「パートナー型」経営

 今回は、多くのM&Aに取り組まれ、今般東証マザーズ、名証セントレックスに上場を果たした株式会社メイホーホールディングスの尾松豪紀社長に、企業経営におけるM&Aの考え方についてお聞きしました。


株式会社メイホーホールディングス
代表取締役 尾松 豪紀 様
会社名株式会社メイホーホールディングス
所在地岐阜県岐阜市
業種建設関連サービス
代表者尾松 豪紀(オマツ ヒデトシ)
従業員数(単)27名 (連)381名
上場2021年6月
東証マザーズ、名証セントレックス

メイホーグループさんは多くのM&Aを手掛けられておりますが、企業経営の中にM&Aを取り入れることになったきっかけや経緯などをお教えいただけますか?


 当社は先代である父が1981年に創業した土木測量設計会社メイホーエンジニアリング(以下、メイホー)を祖とします。私が高校生の時でした。私は1986年に大学を卒業後、大手重工業メーカーの研究所に研究職として勤務しましたが、父からの要請もあって1992年に29歳でメイホーに入社しました。当時は社員8名、うち3名が家族という小さな所帯で、いわゆる下請企業でした。

 業界のことなど何も知らずに飛び込んだ私でしたが、なかなか事業を拡大できない下請企業ならではのもどかしさを感じながら、なんとか事業を拡大路線に載せ、元請会社として成長できないものかと考えていました。当時はその後の事業展開に必要となる国家資格者も少なく、業界団体にすら加盟していませんでしたので、まずはそこから着手しました。

 業界団体加盟に3年を要したのですが、その後自治体から測量業務を元請受注することに成功し、当地でのビジネスは回り始めるのですが、やはり地元だけにとどまっていてはマーケットが限られてしまう。当時急成長していたコンビニエンスストアのチェーン展開のように、国内主要都市に面的な展開ができないものかと、いきなり他県に出向いて営業拠点を作ってみるのですが、各地域には、既にその地域毎に受注される業者が決まっていて思うように拡げられない。

 ちょうど2000年前後だったと思いますが、地方銀行さんからで中小企業のM&Aの話を耳にしました。なるほど、既に事業を行っている会社をそのまま引き継ぐことは、その会社の事業基盤を承継することになる、新たな展開が可能になるのか、と合点がいったのがM&Aとの出会いでしたね。

事業拡大にM&Aを利用できるとのお考えに至ったわけですが、実際のM&Aを手掛けられた際のご感想はいかがでしたでしょうか?


 そうですね、父からメイホーを引き継いで以降、売上比1割程度の利益は出る会社にしていましたので、当時は少々自信があったのでしょう。2007年以降3年程度で3社のM&Aを行いました。

 しかし、M&Aは思っていたほど簡単ではありませんでした。M&Aをした会社は債務超過の会社だったのですが、この3社の再建に5、6年を要しました。特に買収後の統合作業、PMIの試行錯誤は、その後の当社のM&Aノウハウとして蓄積できたと思います。当社は買収後のPMIを外部業者に依頼することはまずありません。全て自らの手で行います。PMIを通じて当社の経営方針を周知し、従業員とコミュニケーションをとり、収益体質を定着させていきます。

 先のM&Aの経験でいうと、メイホーが1割の利益を出せるのは、その利益をひねり出してくれる社員がいたからこそ可能なのであり、もともと他社であった買収した会社の社員の方に同じことを求めてもすぐには難しい。利益が出ない会社を利益が出る会社にすることは、(自分の会社ほど)簡単ではないということも学びました。こうした経験を踏まえ、その後のM&A案件に臨み、計20社ほどの買収に関わりましたが、失敗は幸いにひとつもありません。

 M&Aの経験を重ねると、対象企業の見方、みるべき勘所みたいなものも分るようになりました。例えば、買収後に当社が手を入れなくとも利益をどの程度出せる実力を有する会社なのか、当社が買収後に手を入れたとしたら伸びしろはどの程度ありそうか、といった観点であれこれ検討します。

 相手様の経営者が事業に対して真面目であることも非常に大切だと感じます。今回ABNさんとご一緒させていただいた2つの会社さんは、いずれの社長さんも実直なお方でしたので、安心してお話を伺うことができました。

御社はM&A後の相手先の会社に対してどのような向き合い方をなさるのでしょうか?


 M&A後は、「押しつけ型」ではなく、あくまで「パートナー型」の経営を目指しています。当社にグループ入りした会社の経営者、社員さんの方はそのまま会社に残り、M&A前と同じ形でそのまま活躍していただいています。それぞれの経営者や社員が持っている「こころ」がどこにあるのかを把握し、大切にしながらもその「こころ」に訴え、メイホーグループのパートナー型経営に共感をいただけるよう運営しようということです。

 中小企業は、万事社長の「鶴の一声」で物事が決まり、朝令暮改が当たり前ということをよく聞きます。いわば「人治」なのですが、人に依存する行動規範ではなく、明文化された共通ルールを行動規範とする「法治」に変えて、全役職員はそれに従って行動していただくことで、利益を生み出せる企業体質を定着させねばなりません。

 そのためには、会社の方向性や考え、価値観の共有が重要であり、共感を得るために私も行動し続けるわけです。当社は、経営理念とそれに基づく行動指針の理解促進を目的とした「フィロソフィーブック」を作成し、全社員に配布しています。週次では会社の出来事や経営者としての考えをメイホーウイークリーのという形で社内、グループへ発信しています。私はこの作業を「砂漠に花を咲かせるようなものだ」と言っています。砂漠に花を咲かせるためには水を撒き続けるしかなく、「考え方」、「こころ」を合わせていただけるよう行動し続けることが大切だと思っています。


 こうした働きかけを通じて、自ら能動的に変わっていけるかどうかが大切です。人は、自ら変わろうという意思がないかぎり変わりません。首に縄を付けて水場まで連れていくことは出来ますが、最終的に水を飲むかどうかを決めるのはその人次第ですよね。私は利益を生み出して企業に永続性を持たせるための水撒きをし続けようと考えていますので、M&Aを進めていくうえではそのような当社の理念や私の考えにご共感いただき、行動できるかどうかという点も買い手として考えています。

事業承継にお悩みの経営者の皆さんに一言メッセージをお願いします。


 私がこの会社に入った時代はバブル崩壊直後で、人も街もどんどん元気を失っていくように見えました。日本は変わらねばならない、そのためには我々個人が変わらねばならない、個人が変わるのと同時に、日本に数多ある中小企業自身も変わらなければならないと思うのです。

 過去において作り上げてきたものをただ守ろうとするだけの経営では難しい。M&Aも何かを守りたい一心で取組むものではなく、いままで作り上げてきたものを永続的に成長発展させるためにどうしたらよいか、という観点でM&Aをご覧いただくことが大切なのではないでしょうか?

 私は、自社グループの将来像として、「全国300社構想」を掲げ、その構想をさらに発展させて、「地域企業支援プラットフォーム」構想なるものを実現していきたいと考えています。私たち中小企業は「地域のサポーター」であり、その中小企業が如何にして発展・成長するかを追求することでその事業の永続性が担保される、という基本的な価値観に共感頂ける全国の皆さまに、この「地域企業支援プラットフォーム」にご参加いただきたいと思っています。プラットフォームに参加する会社はパートナー企業です。「共に」成長を目指していきたいのです。後継者のいらっしゃらない会社だけでなく、ご子息の経営能力に不安のある会社にも我々のプラットフォームに参加頂くことで息子さんを経営者として育て上げ、共に永続的な成長を実現していくことも出来るはずです。

 地域の企業が現状に為す術がないとして粛々と事業を閉じていくことは勿体ないの一言で済まされる問題ではなく、それぞれの地域にとっての大きな損失です。共に成長し、そのストーリーを共有できることが楽しいのです。共感いただける皆さまであれば必ずご一緒できると思います。


聞き手 ABNアドバイザーズ川畠前代表取締役

(編集後記)
 「自社だけでない、地域の中小企業の同じ仲間として、共にワクワクしながら成長ストーリーを共有しましょう」という尾松社長のメッセージがインタビューを通じて伝わってきました。どうもありがとうございました。なお、メイホーホールディングスの尾松社長のお考えは、「地域創生の法則」(尾松豪紀著、東洋経済 2021年7月)に詳しくありますので、ご関心のある皆さまはどうぞご参照ください。