大切なのは「縁」と「運」と「恩」

 今回は、創業来初のM&Aにより、長年の念願であった札幌進出を達成された株式会社大協の佐藤常務にM&Aの考え方についてお聞きしました。


株式会社大協
常務取締役 佐藤 拓哉 様
会社名株式会社大協
所在地北海道旭川市
業種管工事業
代表者佐藤 義孝 様
従業員数(役員含む)20名
設立1969年3月

M&Aを戦略に取り入れたきっかけは何でしょうか


 20年前からどうすれば事業エリアを拡大できるか、どうすれば札幌に進出できるかを模索しておりました。その頃はまだM&Aという手法は、一般的ではなかったと思います。取引金融機関には10年程前から情報提供を依頼していました。しかし、当時は大協の基盤が確立していなかったということもあり、M&A実現には至りませんでした。

 M&Aは、「縁」と「運」と「恩」がタイミング良くそろわないと成立し得ないと常々思っておりましたが、今回自ら初めて経験し、それは確信に変わりました。

 今回は取引金融機関からABNアドバイザーズをご紹介頂いたご縁から、素晴らしい会社と巡り合うご縁を頂き、相手先を引き継ぐ任を担わせていただいたと考えています。

M&A前後で考え方に変化はありましたでしょうか。


 買収前の考えは、あくまで主体は自社であり、M&Aの最大の目的は自社の成長でした。しかし、今回のM&Aを経験した後は、相手企業にいかに夢を与えられるか、成長させられるか、それを相手企業の職員に実感させる事が出来るかどうかが大事であるという考えに変わりました。相手方企業に道を示すのは買収側であると思うのですが、事業の当事者は買収された企業の職員であり、その職員にいかに納得して働いてもらう事が非常に重要であると感じました。

 買い手が、相手企業を取り込んで大きくなるという考えで物事を強制しても、職員の納得が得られなければ上手くいくはずがありません。押しつけになってしまう理由は、買い手がその会社とともにどのような事業を展開したいのかというグランドデザインを描けていないからではないでしょうか。グランドデザインを描くための本質を見つけるために、自分は、一方向からだけでなく、色々な角度から相手を見るようにしています。決算書を見て分かることは過去の結果だけであり、そこにこだわりすぎると本質を見誤ってしまうということは意識しながらやっています。

今回のM&Aについて決断に至った決め手を教えてください。


 今回の案件は札幌に進出するきっかけという点では、先ほどお話したニーズに合致しているものでした。しかし、最初にお話しをいただいた段階ではネガティブな印象も正直ありました。しかし、もう少し突っ込んで話を聞いて、真剣に検討することが相手方に対して誠実であるのではないかと思い直し、話を進めさせて頂きました。

 トップ面談後には、その事業を引き継ぐ自分たちこそが一生懸命にやれば共に成長できるのでは、というイメージを持ち、将来のポテンシャルを感じることが出来たのも事実です。今思い返すと、それが自分の中のゴーサインでした。相手の企業の社員を見ていないということだけが不安材料でしたが、取引先も多く、将来の絵を描いて扉を開ければ、状況を変えられると思いました。

今後のM&Aで生かしたい点はありますでしょうか。


 あまり事前情報を入れ過ぎてはいけないと思いました。情報を入れ過ぎてしまうと些細な事まで気になってきて、それを深く調べ始めてしまうので、話が進まなくなってしまいます。何でもかんでも全てをやろうとする事は、大手であれば出来るかもしれませんが、我々の様な中小企業には難しいと思いました。今回の案件でも少し細か過ぎた点を反省していますが、そこはアドバイザリー会社や各種専門家の方々に上手く甘えて、手伝ってもらいながら進めていく事が出来ました。任せるところは任せる。それが、M&A会社との上手い付き合い方だと思いました。

 あと、トップ面談のひとめぼれは、一方通行になってしまうという面も考慮せねばならないと感じました。ポイントは2回目以降のトップ面談を笑顔で迎えられるかどうかではないでしょうか。笑顔で会えるということは、双方納得しているという事になるので。その上で相手のオーナーとしっかりコミュニケーションが取れるかが一番大事であると感じました。そして、相手のオーナーにどれだけ自分をさらけ出すことが出来るかです。自分は全部さらけ出そうとしましたし、実際全てをさらけ出しました。申し上げたいことは申し上げました。本件M&Aは納得できるものになったと考えています。

 これらは間違いなく次回以降も重視したい点になります。

アドバイザリー会社に求めることはどのような事でしょうか。


 我々にとっては結果だけが全てでありません。ただし、アドバイザリー会社の担当者によっては、自らの結果を重視してなのか、自らの都合で強く推してくると感じられる方もいらっしゃいます。誰の為に、何の為にやっているのか。買い手、売り手、アドバイザー、それぞれが考える本質の目線がそろわないとM&Aは成立しない。そこで誰かが我を出すと話がおかしくなると思います。アドバイザリー会社には、その目線を合わせていただく役割を期待します。

 自分が相手に対して思っている事、やりたい事を実直に伝え、それを相手がどう思ってくれるか。「この人の為にやりたい」といかに思わせられるかが重要ではないでしょうか。今回のABNアドバイザーズ様にはその思いを感じました。

買収した会社の将来展望を教えてください。


 事業を支える幹部、社員の方も、我々と同じ方向を向いていただいていると感じています。やはり皆さんは会社の事を真剣に考えて頂けるのだなと。水を向ければどんどん自分から話が出てくるし、思いがあることは感じました。なので、ポテンシャルは間違いなくあると思いました。あとは環境を整えてあげるだけであると思い、どのようにすればその現状を打破できるか、モチベーションを変えられるかを考え、会社の初回訪問の日に、「自分は何もできない、導火線に火を付けるだけで、変わるのは皆さんで、うまくいくかどうかは皆さん次第である。」という話をさせて頂きました。

 まだ3か月しか経過していないですが、一つ言えることは、会社によく人が来るようになりました。取引先、銀行など様々。仕事は人で動いているので、人の出入りが無いとモノも動かないし仕事も動きません。人が来てそこでコミュニケーションが発生すると色々な展開が生まれ、裾野が広がっていきます。それが更に次へとつながれば、可能性は無限大になります。自分で言うのもなんですが、今のところ皆さんと同じ方向を向けているのではないかと思います。

大協と買収した会社の関係はどのようにしていこうと考えていらっしゃいますでしょうか。


 大協と買収した会社はあくまでも別々で考えでいます。そのため買収した会社の名前を存続させました。大協は大協で礎があるし、従来通りやっていけますが、事業を大きくすることが出来ませんでした。対して買収した会社については逆に、どうやって事業を拡大させるか、如何にして名前を覚えてもらうかという点を重視して運営しています。名前を覚えてもらうためには、初めて会う人にどんどん名刺を配って営業していかなければいけません。見えないものをどうやって見える化し、実現していくかを模索しながら進めています。失敗する事もありますが、それは仕方ないと割り切って、次に次にと前を向こうと言っています。

 やればやるほど、成長の度合いが高まっているのが実感できるという意味で、今の仕事は非常に楽しいです。全力で仕事をしてみようと思えたのは、もしかすると久しぶりかもしれません。ある意味で、既に仕上がった大協と、これからまさに事業拡大のチャレンジを試みようとする会社は、楽しさの質が全く違いますが、”わくわく”する事は間違いないです。

M&Aについて悩める経営者の方へのアドバイスはありますでしょうか。


 なかなかM&Aが実現出来ない方は、M&Aを実現するということが目的になってしまい、「買収した後にその会社をどうしたいのか」という本質からずれてしまっているのかもしれません。

 M&Aには、買い手、売り手双方の納得が必要になります。だからM&Aは時間がかかるのだと思います。少なくとも1年~1年半の時間軸で考えることが必要になってくるでしょう。買収した後にその会社をどうしたいのかの本質を見極め、時間をかけて根気よく情熱を費やし、相手に誠意を見せて結果を待つ、そのプロセスを楽しむことが、買収側がやらなければならない事であると思います。そうすれば相手は行動を起こしてくれるのではないでしょうか。縁がない、運がないというのは、引き合う力が足りないからだと思います。その場合、引き合わせる力を高めてくれる仲介会社に頼ることも一つの手段であると思います。

 日本の中小零細企業が減っていくという将来は変えることは難しいでしょう。しかし、M&Aを推進することで、人材を減らさない、人材を次の世代に引き継ぐことが出来るものと認識しています。企業の成長ももちろん大切ですが、人材を次の世代に引き継ぐことはもっと大切であると考えています。そのためにも、今後も積極的にM&Aを行っていきたいと思います。その為、引き続き情報提供をよろしくお願いいたします。

(編集後記)
 大協様は今回が設立来初のM&A成約でした。おめでとうございます。今回始めてM&Aを実行してみての考え方の変化も含めてお話を頂きました。新たにM&Aを検討されている皆さまのご参考になれば幸いです。また、今後も積極的にM&Aに取り組んでいくとのこと、再度お手伝いが出来るように準備を怠らない様にしていきたいと思います。